ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
「視力がどうした? ん」

 珠希が聞き返す。
 つい口が滑ってしまったのだが、珠希にはいずれ相談しようとしていたので、ぼくは思い切ってそのことを話してみた。

「あのさ、冗談じゃないんだけど」

「うん」

「いつのころからか、星が見えなくなったんだ」

 真っ黒な空の下、ぼくは珠希にもうひとつの異変を告白した。

「……」

 珠希は驚きを隠せないようすで、一瞬固まったが、気を取り直したようにぼくに問い掛けた。

「星だけ? 他のは見えるの」

「うん」

 ぼくは正直に話した。

「夜空を見上げると真っ暗なんだよ。星が見えないっていうか、亡いんだよ。でも可笑しなことに、月や昼間の太陽なんかは見えるんだよ……」

 視界の中に黒の世界が拡がっている。


「今日も星出てる?」

「う、うん。うっすらと曇ってるけど、微かに見えるよお星さま」

「そうか。太陽も月も星なのにね。この病気となんか関係あるのかな?」

 ぼくは夜空を見上げてつぶやいた
 相変わらず星の光りはぼくの瞳には届かず、いつも通り深い黒に染まっている。

「先生には話したの? ちゃんと先生に話した方がいいよ。何か関係有るかも知れないじゃん」

「うん。明日また先生に合うから話してみるよ。そろそろ行こうか。寒くなってきた」

 夜風が星の無い空を舞う。パジャマがその風になびいている。珠希はぼくのカミングアウトにあたまの混乱を隠せないようすだったが、手を引きふたりして屋上をあとにした。



 入院生活に入って一週間。窓から穏やかな陽が射す午後。最後の検査説明を看護士から聞かされた。


 血管造影アンギオ検査。

 聞き慣れない名前というか、初めて聞く検査名。アンギオって…??
 両足の付け根にある動脈から、細いカテ−テルを心臓付近まで注入。そこから造影剤と呼ばれる液体をあたまの血管全てに注入して、その状態のままCTスキャンでレントゲン撮影。脳血管の状態を検査するというものだそうだ。
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