ストレイ・キャット☆シュ-ティング・スタ-
「うん。明日またMRI検査だって。もう嫌んなるよ」

「ふ〜ん、そっか。でも仕方ないよ。検査入院してるんだもん。それより省吾、売店にいかない。地下だったよね」

「何買うんだよ。食べる物だったらさっき……」

「いいじゃん、いこ」

 珠希はぼくの声を掻き消すかのように言って、手をとり立ち上がった。



 MRI検査にCTスキャン、血液検査は理解出来るのだが、なぜだか心拍検査、視力検査に聴覚検査、おまけに肺のレントゲンまであたまの中を手術するのに必要なのだろうか。ぼくはめまぐるしく変わっていく病院での毎日に、目を丸くするばかり。
「身体キレイになっていいじゃん」


 夜、珠希とふたりして屋上に上がって散歩。五階建ての病院。エレベ−タ−で五階まで上がり、さらにそこから半階ほど階段で上がる。建物の造りからか、そんな風になっていて、入院して運動不足になった身体にムチ打ちながら階段を駆け登った。どうやら健康な身体でも、検査入院で一日中パジャマを着ていると不健康になるみたいだ。ぼくは知らずしらずに呼吸が荒くなる。

「はぁ、はぁ、疲れるな、こんな階段上がっただけなのに」

「ずっと部屋に居るからだよ! たまには運動しなきゃ身体が鈍るよ」

「仕方ないよ。健康な身体なのに入院してるんだから。なんか不思議。健康体で検査ばっかり受けるのって。入院して不健康になったかも」
 屋上に出ると、澄んだ空気の粒が身体を包み、気持ちがいい。空は雲ひとつ無く、真っ黒な無限が拡がっている。

「身体キレイになるよ。いい機会だからゆっくり療養するんだよ。星がキレイね」
 そういったあと、目を閉じて空気の感触を確かめるように呼吸をする珠希。

「でもさ、必要あるのか? 聴覚とか肺のレントゲンなんか。聴覚って耳だろ? 視力、視力は……」

 ぼくは視力と口走ってことばを失ってしまった。珠希、いや、両親や友人にさえ話していなかったのだ。常識では考えられない身体の異変を。

 ぼくは夜空輝く星たちを視界から失っていたのだ。
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