Crescent


暫く無言でいると澤野さんは不思議に思ったのか。
「もしかして、足ひねった?」
と、心配してくれる。


「……大丈夫です」

「そっか、良かったぁ。
ビックリしたよなぁ」


もしかして轢かれていたかもしれない。
急に怖くなって早く鳴っていた心音は聞こえなくなり、代わりにブルッと身体が震えた。



「本当にケガがなくて良かったな」


澤野さんはそう言って歩き出した。
私の手を掴んだまま――――。



少し後ろを付いていくように、私の足も一緒に動いている。


「あの……澤野さん?
そろそろ手を放して貰えますか」


「駄目だよっ!」


「へっ、なんで……」


「また轢かれそうになったら危ないから駄目!」


「き、気をつけるから大丈夫ですよ…?」


「危ないから琴音ちゃんはこっち」


小さい子供に言ってるみたいじゃない。ムッときて。


「小さい子供じゃないんですよ。
一人でちゃんと歩けます」



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