ファンレター



バスに乗ろうとすると、さっきのカメラマンが私のところに走ってきた。

一瞬まずいことを言われるんじゃないかと、身構えてしまったけど



「君にはまだ、サインをあげてなかったから」



と、手の平にメモ紙を渡された。

別にあなたのサインなんて、私は欲しくありませんが。

そう思いながら受け取ると、そこにはサインじゃなくて、何か文章のようなものが書かれてた。



「それじゃ出発だ。全員いるなー!」



動くバスの窓に手を振る、布施原さんとカメラマン。



「ねぇ涼、十くんに会えるかもしれないの。コレ見て!受付にあったの持ってきちゃった」



多美の手には、どこかのイベントチケットが握られてた。



「今夜、ホテルの近くにあるクラブでイベントがあるらしいんだけど、ゲストの中に十くんの名前見つけちゃった!」



裏面に小さく書かれた十の名前。

決してメインのゲストではないけど、十が来ることに間違いはないみたい。



そして
カメラマンがくれたメモには



『FUTURE SPACE PM8:00 大北』



と書かれてた。



「これ、チケットと同じ場所じゃん!」



多美がチケットをメモの隣へ並べる。

同じ場所、同じ時間。

あの人、大北さんていうのかな。

どういうつもりなんだろう。



「行くしかないよね」



多美の力強さに、私もなんとなく行けるような気がした。

ううん、今度こそ行かなければいけないんだ。




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