ファンレター




両手に紙袋をいくつも下げて、足早に歩く多美。



「まだ明日も明後日もあるんだから、お土産なんて後でいいんじゃない?」



私の声も耳に入らず、とにかく買い物をしまくってる。



「涼も早めに買っておいた方がいいわよ。明日には強制帰還させられる恐れもあるんだから」


「えっ…」



なんと!

多美はすでに、脱出が見つかった後の罰を覚悟してるようだ。



そうだよね、今度勝手な行動が見つかったら…

そう考えると



「多美ー、やっぱり絶対無理だよぉ」


「絶対やる!」



恐怖と期待と動揺と。

せっかくの修学旅行だというのに、今回の旅行中、私の気が休まる時間はまったくない。



そして多美の提案で、あのFUTURE SPACEというクラブの下見にも行くことになった。

短い時間の中で、道に迷うというロスを作るわけにはいかないってことらしい。

地図を見れば、宿泊ホテルからそう遠くではないみたいだけど、夜に動くんだから、当然分かりにくくなることが考えられる。



「夜の8時には絶対着いていないとダメ。十くんはまだ高校生だから、あんまり遅くなるのは事務所でも止められているはずよ。きっと最初の方で少し顔を出すくらいで終わっちゃうと思うのよね。その後、少し時間を作ってもらったとして、ホテルの見回りがある深夜1時頃にはベッドに戻っていた方がいいと思う」


「う…うん…」



よく頭がまわる多美に感心。

私はもう、十が近くにいるというだけで、冷静になれないっていうのに。




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