ファンレター
店を閉めた大北さんが、カウンターで煙を吐く。
最初は細く、だんだん大きく。
多美は奥の部屋で、どんな夢を見ているのか表情を緩めながら、薄い毛布にくるまってソファで眠ってた。
「…すみません、変な迷惑かけちゃいました」
私が謝ると、大北さんは苦笑いで首を振った。
灰皿に歪むタバコ。
「気にすることないさ。君は単なるきっかけに過ぎない。見えない部分では、ずっと対立するような関係だったんだ」
そう言われても、私は顔を上げる気力もなかった。
落ち込んだ。
頬をおさえる手に、悔し涙がつたう。
力になってくれる人たちに迷惑をかけながら、自分には何もできなかった。
「高校へは僕が連れて行くから、今はゆっくり眠るといいよ」
桂さんが声をかけてくれる。
尾根さんが去った後の部屋に、流れる重い空気。
桂さんの疲れた表情。
全部私のせいだ。
「もう何も考えない方がいい。なるようになるもんさ」
大北さんは私を奥の部屋へ戻るよう促した。
どうしてこうなるんだろう。
私が考えていることは、そんなに高望みだったのかな。
望まなくても、むしろ嫌でも近くにいられたあの時とは、ずいぶん変わってしまった。
私は多美の隣で壁に頭を傾けた。
窓からは、少しずつ朝の陽射しが入り込んできてる。
疲れてた。
一晩に何日分かの出来事が起こったようで、私はそのまま深い眠りについてしまった。