ファンレター
チャイムの音にも気がつかないまま、私はトイレのドアに寄り掛かって窓の外を見てた。
途中から教室に入ることもできなくて、仕方なく屋上に上がる階段の途中で時間を潰す。
誰にも掃除されることがない高い天窓には、蜘蛛の巣がかかってた。
雨に濡れて…、でも切れそうで切れなくて。
すごくもどかしい様子が、どこか自分の気持ちと似てた。
私は、どうするつもり?
時間の余裕はあった。
でも、自分の気持ちに余裕がなかった。
和哉と付き合ってることに、何の不満もない。
好きで付き合ってることに、変わりはない。
それなのに
十の所へは行かない、と決められない自分がいる。
変だ。
私…絶対変だ。
何もかも自分が望んでた通りになったはずなのに、こんなに辛いなんて。
どうしよう。
どうすればいいの?
じっとしてられなくて、階段を上がってみたり降りてみたりを繰り返す。
行くのか、行かないのか。
迷う気持ちは答えを見つけられない。
ただ、ドクンドクンと胸が波打つたびに苦しくて。
そんな時だった。
私は、最悪な人物と顔を合わせてしまった。
「何やってんだ羽田。授業中だろ」
口うるさい生徒指導部の山口だ。