ファンレター
「先生、私が手伝うから!」
多美が横から入ってきた。
「河野がぁ?お前じゃ間に合わんだろうが」
だんだん怒りが込み上げてきてる山口を、もう抑えられそうにない。
「多美もういいよ。私が手伝うから」
「ダメ!私は十くんの一番のファンなんだから。ファンは相手の幸せを願ってこそファンでしょ?」
「幸せ……?」
「十くんは絶対涼を待ってる。涼は、ファンじゃなくてもっと近い存在になるべき人なんじゃないの?涼がなかなか本当のこと話してくれないから、早く気付いてあげられなかったけど。涼の友達として、十くんのファンとして、今してあげられることはこれぐらいしかないって気がついたから」
多美が山口の腕を引っ張って、生徒指導室へと歩き出した。
山口も訳がわからないまま、多美のペースにはまりそうになってる。
「早く行って!」
「多美……」
私は多美のこと、全然わかってあげてなかったのに。
多美は私のことを、こんなにも考えてくれてた。
「うん…、うん、ありがとうっ」
涙を拭くのも忘れて、私は雨の中を急いで駅に向かった。
傘はむしろ邪魔になる。
多美が濡れながら走ってきた理由が、よくわかった。
流れるのは雨か涙か。
もう自分でもわからないままに、私は夢中になって走ってた。