やまねこたち



□ □ □



「ひょ・う・くん」

厳重にかけたはずの鍵が落ちた音がして、いよいよ俺は死期が近いと自嘲した。

楽しげな声が上から降ってくる。


さっきから途切れ途切れに聞こえる悲鳴は艶子のもの。
それが数時間前にぱたりと止まった。
あいつ、生きてるかな。

そいつはそのまま上品に部屋に入ってきた。
高すぎる身長が威圧的だ。

「ちょ、まじで来るとは思わなかったぜ。一回落ち着こうぜぇ??麻月くんよぉ」
「僕はいつも落ち着いてるよ」

にっこり笑顔で麻月はそう言った。

「僕の部屋においで、豹」

その長い腕が伸ばされたとき、情けないことに体は動かなかった。

「大人しいのはいいと思うよ、だけど僕は暴れる子の方が好きかな」
「ちょお、まじで変態」
「ありがとう」

ずるずると引き摺られながら、麻月の部屋に無理矢理押し込まれる。

長身を誇っている俺と蓮二でさえ、193センチのこいつには敵わない。

「さて、と。豹。覚悟はできてる??」
「な、なんの覚悟を」

にこりと笑う麻月。

「さ、おいでよ」

ベッドに座って、来いとばかりに隣をぽんぽんと叩いている。

「くっそぉ、余裕だな!!!俺の今日の欲求は解消されたんだよ!!!」
「艶子で??駄目だよ、艶子はまだ17なのに」
「俺だってお前より年下なんだけど、」

痺れを切らしたのか、麻月は立ち上がる。

俺らしくねぇ。逃げ場を探しているなんて。

「っ、」

ぐいと顎を反らして麻月を見返してやった。

「うあ、」

Tシャツを捲りあげられる。
カレンや艶子ならまだしも、今までそんな急速に脱がせられた経験がなかったから、驚いた。

「ま、まつき、言っとくけど俺は男でお前も男。オッケェイ??」
「知ってるよ」

にこりと笑う麻月。
力任せにTシャツが奪われた。

ぞっとした。この俺はノーマルだ。
れっきとした女好きだ。

「ちょお待とうや麻月くん。な??考え直してみな??カレンの方が数倍抱き心地はいいと思うけど、あ、艶子派か!!!あの平凡さが逆にいいみたいな…」

じりじりとにじりよってくる麻月の表情は、変わらない。

「―――っ、くそ!!!俺はノーマルだ!!!」
「うん、知ってるよ」

素肌を這う細い指の感触が耐えられない

くそ、こいつが蓮二だったら逆に乗ってやるのに。
俺の背があと20センチ伸びたら。


「やっぱ無理!!!」

俺は堪らず後ろ手でドアノブを回して、部屋から飛び出た。
すぐに廊下を出ると、階段を登っている艶子に遭遇する。

「逃げないでよ、豹」
「いっ、嫌だって!!!まじでまじで!!!俺はノーマルだ!!!」
「だから、知ってるよ」

がしりと腹を長い腕で抱え込まれて、ずるずると部屋に引き摺られそうになる。

「艶子!!!見てねぇで助けろよ!!!」

艶子はちゃんと服を着ていて、必死な俺をにやにやと見下ろしていた。

「ちょっと前のあたしじゃん」

麻月の指が、俺のベルトに手を掛けようとする。
全身に鳥肌が立った。

「ぎゃああああ!!!麻月!!!」

ずるりとベルトが抜かれるのが分かる。

「艶子も参戦する??」
「豹でぇ??」

笑いを堪えているような顔で、俺を見下ろす。

「艶子ぉ…、ふざけやがって」
「お互い様だろ??」

俺の目の前にぴったりくっついて、艶子は笑った。

どんなに背伸びしたって、俺の胸までしか頭が届かない癖に、俺が無抵抗だとこの生意気加減だ。

「じゃあ艶子、楽しもうか」
「いっ、嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
「うるさいなぁ、それでも男か」
「黙れクソアマ!!」

艶子の眉が寄る。

「艶子、豹を押さえるのは僕に任せて。艶子にはできないと思うから」
「だな、ありがとう。じゃあ、このクソ性欲マシーンはあたしが何してもいいんだよね??」

ベッドに倒された俺の胸に、艶子は裸足で足を掛ける。
ひやりとした。

女は怒ると後が怖い。
手首を捕まれて、どんなに動いてもびくともしない。

「ねぇ、豹??あたし、あんた素敵だと思うよ」

ズボンの留め具を外される。
そのまま勢いよく、ズボンを下げられて。

「ひっ」
「きっとあんたは、いい声で鳴いてくれるよね??」
「それは僕も思うよ」

艶子は笑顔のまま、俺のパンツを脱がせた。

「つ、つや、こ」
「なぁに??まさか豹くん、こわいとかぁ??」

麻月に首を舐められる。
生々しい感触に、顔をしかめた。

ぐい、と艶子の手によって足が退かされる。

「おい、艶子…艶子!!!や、」

艶子は仕返しとばかりに笑顔になった。


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