恋文
センセとアタシは向かい合って座る。
センセは無言でパサッと、何かの紙をテーブルの上に置く。
「…見てみろ。」
指示通り、その紙を手にとり、見てみる。
そこにはアタシの名前と、出席日数にそれから成績が記されていた。
ほう?
出席日数、成績ともに絶望的な数字。
アタシは何も言わずセンセを見る。
センセも何も言わずアタシを見る。
はい、無言。
センセが何を言いたいのかはよーく分かる。
けど、あえて言わない。
言ったらどうせ、分かってるなら来い、とか言われるのがオチだ。
センセは中指でグリグリと眉間を押しながら、眼鏡越しにアタシを見据える。
センセ、目ぇ怖い。
「川上。俺の言いたいことは分かるな?」
「はい。」
「じゃあ、なんで来ない?」
ほら。やっぱり。
行きたくないものは仕方ないじゃないか。
「センセ、アタシ毎日来てるけど。」
「すぐサボるだろう。」
「でも来てるもん。」
「来てるもん。じゃなくてだなぁ…。はぁ。じゃあ、なんでサボるんだ?」
センセの呆れたような物言いに腹が立つ。
でも、自業自得だから我慢するしかない。
「サボりたいから。」
センセはまた眉間をグリグリと押しながら、今度は長いため息を1つ吐き出した。
「…学校は好きか?」
「好きだよ。学校は好き。ただ勉強は嫌い。」
「お前なぁ、そんな小学生みたいな理由で学校をサボるなよ…。」
「センセはないの?仕事をサボりたくなる時」
「ない。…と言えばウソになる。」
へぇ。意外。
センセなら「サボるなんてありえない。」とでも言うような仕事人間だと思ってた。
「なんだ、その顔は。俺が仕事大好き仕事人間だとでも思ってたのか?」
「うん。」
「俺だって人間だ。仕事が嫌になる時だってあるさ。」
「センセはそういう時どうするの?」
「そうだなぁ。俺はサボる。」
「え、サボるの?」
「ああ。サボる。だから、サボって良いのは月に1回までと言ったろう?それ以上は周りに迷惑を掛ける。」
アタシが1年の頃、センセと約束した。
サボって良いのは月に1回まで、と。
アタシは結局守らなかった。
けど、センセは何も言わなかった。
アタシを怒りもしなかったし、喋ることもしなかった。
それが、少し寂しかったのを覚えてる。
「約束。今度こそ約束するよ。」
仕方ないから約束する。
だって、サボって良いのは月に1回までって悠哉さんに言ったのはアタシだもん。
まず、アタシが守らなきゃでしょ?
「……今度こそ守れよ。」
「当たり前。」
Vとピースをすると、センセはフッと笑って、立ち上がった。
笑うとこ初めて見た。
「その紙は記念にやるよ。来年の今ごろ、その紙がどれほど良いものになってるか楽しみだなぁ。」
「全然期待してて良いよ。」
「頑張れよ。」
「うん。またね、センセ。」
生徒指導室から出て、教室へ向かう。
荷物は全部置きっぱなしだったから。
教室には、もう誰もいなくて、帰宅部のアタシとしては新鮮な光景だった。
鞄に入れたままのケータイを手探りで探す。
「あったあった~」
ケータイを取り出すと、青く点滅していた。
メールだ。
それは悠哉さんからだった。
『ハルちゃん!仕事が早く終わったから一緒に帰ろう!校門のとこで待ってるー!』
そのメールは15時36分に来ていて、焦って時間を確認すると16時53分だった。
もう1時間以上経ってる!!
「本っ当、最悪だぁぁぁぁぁ!!!!」
誰もいない廊下を叫びながら走った。
自分でも驚くほどのスピードで靴を履き替え、校門まで走った。
悠哉さんはもう帰った。いる筈ない。
そう思いながらも、アタシは走った。
もしも、が現実になることを願って。