恋文
「と、言う訳で、悠哉さんについて知りたいので教えて下さい。」
「なんで俺なんだ。」
心底めんどくさそうに、アタシを見下ろすのはボヌールの店長、そして悠哉さんの友達の玲二さん。
「だって悠哉さんの友達って玲二さんしか知らないし。」
「俺はパス。人の恋沙汰に首つっこむと、ろくなことがねぇ。」
「なんで!可愛い可愛い常連客の為に一肌脱ごうとか考えてよ!!」
「はいはい。可愛い可愛い常連客さん、そのケーキ食ったら帰れよ。忙しいんだから。」
ボヌールは、たいてい14時~17時の間が1番混む。
この店のお客の6割は、アタシのような女子高生だからだ。
今も、テーブル席は全て埋まっていて、玲二さんもなかなか忙しそうだ。
このお店は、何故か玲二さん1人でやっている。
アルバイト雇えば良いのに。
「じゃあ落ち着くまで待つよー。しょーがないなぁ…。あ、ケーキめちゃうま。」
「誰が待ってろ、と言ったんだ。良いからケーキ食ったら帰れっつの。あんま遅くに1人で帰したら、俺が悠哉に怒られんだよ。」
「遅くって。アタシ高校生だよ?」
「まだガキだろ。」
「ぶぅ。」
後ろのテーブル席から「すいませーん。」と女子高生の声が聞こえた。
玲二さんは注文を取りに行ってしまい、アタシは1人で寂しくケーキを食べる。
やっぱうまいよ、コレ。
さすが。玲二さんの新作はハズレがないな~。
意外なことに、ここのパフェもケーキも玲二さんの手作りなんですよ。
あんな怖そうな顔しといて、料理うまい、という最高のギャップがある訳ですよ。
最近それを知って爆笑したら殴られたから、もう笑わないと誓った。
「なんだ、まだいたのか。」
注文を取り終えた玲二さんは、カウンターに戻ってくるなりそう言った。
まだ3分も経ってないっつの。
「まだ食べてるんで帰りませーん。」
「さっさと食って帰れよ。」
そう言い残し、カーテンの向こうのキッチンへと入って行く。
やっぱ1人で経営ってのは無理だよ。
あ、そうだ!!
良いこと思いついちゃったー!!
「玲二さーん!」
「おい、こら。勝手に厨房に入んな。」
「良いじゃん、良いじゃん!それよりアタシ良いこと思いついたんだよ!」
「は?下らないことだったら殴るからな。」
「大丈夫大丈夫。」
たぶん。
殴られないように祈りながら苦笑いで返す。
「アタシ、ここで働くよ!お給料はいらない!代わりに悠哉さんのこと教えて!!」
「はぁ?」
訝しげな様子で玲二さんはアタシをジロジロ見たあと、何か思い付いたのかニヤッと笑った。
「良いだろう。ちゃんと働けよ、バイト君。」
「やったー!」
「じゃ、今日からヨロシク。」
「え?今日から?まじで?」
「まじだ。ほれ、エプロン。お前は皿洗いと注文担当な。行って来い」
「え、ちょっ、ちょ!!」
アタシの意見など聞く耳を持たずで、エプロンを持たされ、厨房から追い出されてしまった。
まだケーキも食べてる途中なんだけどなぁ。
食べかけのケーキを、カウンターの中に置いておき、仕方なくエプロンを着ける。
第一、アタシ制服のままだし。バイトなんてやったことないし。と、心の中で文句を言いながら、注文が来るのを待った。