恋文
いつもの放課後。
アタシは寄り道をする訳もなく、真っ直ぐボヌールへ向かった。
「店長ーやっほー」
「なんだ。また来たのか。」
「今日は放課後、悠哉さんと遊ぶから、バイトはなしにしてー。」
「それは別に良いんだが、お前ら勝手にうちの店を待ち合わせ場所にすんの止めろ。どっかその辺で待ち合わせすりゃあ良いだろ。」
「可愛いアタシが不審者に会ったらどうするのさー。」
「不審者の趣味と運の悪さを笑う。」
「いや、そういうことじゃなくて。」
この人はアタシをなんだと思っているんだ。
アタシだってか弱い女の子なのにー、ちょっと変な躍りでストーカーを追い払うだけの。
「第一、不審者の趣味悪くないよ!」
「悪いだろ。」
「アタシのおかげでボヌールに男の客増えたじゃん!アタシが可愛いおかげだよ!」
ボヌールでバイトを始めてから数日で、男の客が激増した。
今までは、玲二さん狙いの女の子しか来なかったから、男の客も来るのは良いと思うんだけどなぁー。
こういう時は、姫の称号も悪くない。
利用できるものは、とことん利用させて貰いますよ。
「バッカ。本当に可愛い子ってのは、自分のこと可愛いなんて言わねーよ。」
「知らない知らない。聞こえないっすわー」
「誰だお前」
「みんなのアイドルハルちゃんだおっ!…ごめんごめんごめんって。今のは、ふざけすぎた。お願いだから、そんな目で見ないで。なんだコイツって目で見ないで!店長!」
玲二さんの冷たい視線を浴びながら、もう何も言わなくても出てくるようになったヤクルトを飲む。
アタシがヤクルトで大人しくなるとか思われちゃ困るよね!ヤクルトごときでアタシが納得するとでも…ヤクルトうめー。
「あ、いらっしゃいませー。」
来店したのは女の人。
この人も玲二さん狙いなのかなー。
ときどき来るけど、いつもカウンターに座る。
そして、コーヒーと抹茶ケーキを頼む。
たぶん、甘いのが苦手。
なのに、この甘いスウィートカフェボヌールに来るくらいだからねー。
どうなんだろうねー。
でも、玲二さんと話してるとこ見たことないし。
あー、アタシが休憩してた時に話してた、かな?遠くてよく分かんなかったけど。
チラッチラッ、と横目で見ていると、玲二さんに頭を叩かれた。
「お客さんをジロジロ見んな。」
「…ん。」
…結構、痛いヤツ。
それでも懲りずに、お客さんを横目で見やる。
やっぱりコーヒーと抹茶ケーキ。
それを美味しそうに食べる。
あー、美味しそうだなー。今度、抹茶ケーキにしようかなー。
「あ。」
ちょうど悠哉さんからメールが入る。
内容は確認しなくても、なんとなく分かる。
「じゃ、また来るねー」
「おーう。」
店の外に出ると、太陽の暑さにも負けないセミの声が響き渡っていた。
うるさいなぁ、と文句を言いながら、悠哉さんを捜す。
もやーん、と見えずらい向こう側に、黒い車。
たぶん悠哉さん。
曖昧な確信を持って近付くと、ビンゴ。
何の躊躇いもなく、助手席のドアを開けて乗り込む。
涼しい風が、アタシを包み込む。
「暑いねー」
すっかり夏バテした様子の悠哉さんを見て、夏だなー、と感じる。
「涼しいとこ行こうよー」
「涼しいって?」
「んー。北極。」
「お客さん、北極はちょっと。あ!北極じゃないけど、北極っぽいとこなら連れてってあげるよ!!」
と、悠哉さんがニコニコと笑った。
じゃ、それ。と簡単に返す。
冷たいとか言わないで。マジで暑くて死にそうなんだよ。