恋文
近くに停めてあった悠哉さんの高そうな車に乗って5分くらいで、小さなカフェに着いた。
店の前には、オシャレな字で〝Bonheur〟と書かれた看板があった。
なんて読むんだろう、とアタシが頭を捻っていると、悠哉さんは優しい笑顔のまま「ボヌールって読むんだよ。」と教えてくれた。
ボヌール、ボヌール…。
英語なのかな?
「どういう意味なんですか?」
「うーんと、確かフランス語で幸せ?みたいな意味だった気がするような、しないような…?」
全て疑問系で答えたあと、分かんないや、と申し訳なさそうに笑った笑顔が可愛かったから許そう。
「フランス語なんてできなくても生きていけるからね!さ、入ろ!」
フランス語の必要性を否定してから、店の中へ入る。
言い訳をする姿は、同級生の男子と大差ないように見えた。
それを少しおかしく感じながら、悠哉さんの後に続いて、扉に付いていたベルのチリンッ、という控えめな音を鳴らして、店へ入った。
店の中には、カウンター席と、テーブル席が2つあった。
カウンターには1人の男が立って、グラスを磨いていた。
無造作にセットされた黒髪に、短い髭を生やした男は、
「いらっしゃいませ…って、なんだ。悠哉か。昼間っから、またサボりか?」
「サボりだなんて聞こえが悪いから止めてよー。休憩って言って、休憩って。」
「はいはい。で?休憩中に女子高生ナンパしたのか?」
悠哉さんと親しげに話す男は、アタシの方をチラリと見てから、悠哉さんを問いただすように言った。
「違う!違う!俺の落とし物を拾ってくれたからお礼!この子はハルちゃんだよ。」
「川上小春、高校2年生です。」
「で、ハルちゃん。コイツは玲二。顔はちょーっとコワイけど料理めっちゃ旨いんだよっ!」
「杉崎玲二です。よろしく。」
「ハルちゃん、何飲む?」
「オレンジジュースで」
「おっけっけー俺はいつもので、ハルちゃんにはオレンジジュースとパフェお願い!」
「あいよ、」
「ハルちゃん、おいで」
悠哉さんが座ったのはテーブル席。
アタシがソファの方で、悠哉さんが椅子。
平日の昼間だけあって、お客さんはアタシ達だけだった。