ガーデンテラス703号
「またね」があるのか不明だけど、手を振って駅のほうに引き返す森岡さんに小さく頭をさげる。
「おやすみなさい」
しばらく彼の背中を見送って、その姿が見えなくなると私もマンションのエントランスへと向かった。
オートロックのドアの前に立ち止まって、カバンの中から鍵を探す。
だけど、わかりやすいようにカバンの内ポケットに入れておいたはずの鍵がすぐに見つからなかった。
「あれ?おかしいな……」
カバンの口を大きく開いて本格的に鍵の捜索を始めようとすると、隣に人影が現れた。
私を避けるようにして、その影がエントランスへの鍵を開ける。
よかった。同じマンションの人だ。
ほっとして顔をあげたら、それは私の見知った人物だった。
「ホタル……」
振り返ったホタルが、妙に冷たい目をして私をジッと睨む。
いや、睨んだつもりはないのかもしれないけど、エントランスの灯りに照らされたホタルの顔がいつもより怖かった。