ガーデンテラス703号
「そんなことないです」
顔が赤いのだとしたら、それはさっきのホタルの言葉のせいだという自覚があった。
少し顔を上げて視線を巡らせると、向こうのほうで女性客に接客しているホタルの姿が見える。
注文をとりながら、ほんの少し彼女たちに笑いかけているホタルの横顔を見ていたら、複雑な気分になった。
今日は森岡さんと食事に来ているのに。
結局ホタルのことばかり気にしてしまっている。
ホタルから目をそらすと、運ばれてきたまま手をつけずにいたカクテルに手を伸ばす。
ホタルのおすすめどおり、それは甘くて飲みやすかった。
飲みながらまたホタルのことを考えてしまっていることに気付いて、小さく首を振る。
「これ飲んだら出ようか?」
ホタルに対する邪念を振り払おうとしていると、森岡さんが私の耳元にそっとささやいてきた。
ホタルの気配がちらつくこの店にいる限り、絶対に彼のことが頭からは離れない。
私は森岡さんの誘いに小さく頷いた。