ガーデンテラス703号


注文したワインとカクテルを飲み終わると、私は森岡さんに促されるように席を立った。

私が席を離れるとき、タイミングがいいのか悪いのかカウンター席の周りにも他のテーブル席周辺にもホタルの姿はなかった。

厨房に入って他の仕事をしているのかもしれない。

ほっとするような、だけど少し淋しいような。

複雑な気持ちで、レジに向かう森岡さんのあとについていく。

まとめて会計を済ませて店を出ようとする森岡さんに、私も急いでついて出て、カバンから財布を取り出した。


「あの、いくらですか?」

食事代を出そうと訊ねたら、森岡さんが財布を持つ私の手を軽く押した。


「いいよ、気にしなくて」

「でも……」

前もおごってもらったし、二回も食事代を出してもらうなんて申し訳ない。

財布を持つ手を引かずにいたら、森岡さんが笑いながら首を小さく横に傾げた。


「じゃぁ、もうちょっと付き合ってくれる?散歩でもしようよ」


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