ガーデンテラス703号
「でも、私……」
「あゆかちゃん、今彼氏いないんだよね?」
「いない、ですけど……」
「だったら、おいでよ」
森岡さんが、甘い声で私の耳にささやく。
こう言ってくれるのが、もし心の底から気になっている男の人だったら……
私を誘うのは森岡さんの声なのに、そんな考えとともに、ふと別の誰かの顔がよぎった。
「あゆかちゃん」
森岡さんが、彼から視線を外そうとする私の頬に手を添える。
顔を上げさせられて、森岡さんと真っ直ぐに目が合う。
そのまま、目をそらすことも動くこともできずにいると、森岡さんがほんの少し首を傾げて顔を近づけてきた。
キス、される……
自惚れかもしれないけど、直感的にそう思った。
避けなければ、このまま流されてしまう。
私を抱き寄せる森岡さんの腕の力はさほど強くない。
拒否しようと思えば、多分彼を退けられる。
だけど、慣れない状況に身体が強張ってしまっていて、咄嗟に動けなかった。