ガーデンテラス703号
「あゆかちゃん?電話、誰?」
振り返ると森岡さんが立っていた。
彼の存在をつい忘れかけていたことに気付いて恥ずかしくなる。
「ルームシェアしてる友達からです」
「シホちゃん?」
「シホじゃなくて、別の友達です。3人で住んでるんですけど、その友達が家の鍵を忘れてしまったみたいで。家に入れないから、すぐに帰ってきて欲しいって」
「ふぅん。それで?」
そう言った瞬間、森岡さんが冷めた目で私を見下ろしたのがわかった。
「だからすみません。今日はここで帰ります」
「そう」
短く答えた森岡さんの声が冷たい。
こんなかたちで、逃げるように帰るんだからあたりまえなのかもしれない。
きっと、気を悪くしてると思う。
だけど、このまま気持ちもないのに森岡さんに流されるほうがもっと良くない…気がする。
「あの、今日はありがとうございました。では、また……」
ショルダーバッグを握りしめて、ぺこりと頭を下げる。
冷めた目で私を見下ろす森岡さんの前に立っているのが気まずくて、そのまま急いで彼から逃げ出した。