ガーデンテラス703号


胸を震わせながら、もう一度ホタルと唇を重ねる妄想をしてはその度にハッとする。


そうだ。私、キスはされたけど、ホタルから私への好意の感情は言葉で伝えられてない。

それなのに、さも想いが通じあったかのような顔をするのは、とんだ勘違いなんじゃないだろうか。

そう思ったら怖くて、ホタルと顔を合わせられなかった。


マンションを出て近くのコンビニの前に差しかかったとき、そういえば何も食べてこなかったなと思った。

ホタルと顔を合わせずに玄関を出ることしか頭になくて、胸いっぱいだったけど、無事マンションから脱出できたら少しお腹が空いてきた。

左腕につけた時計にちらっと視線を落とす。

急いで家を出てきたから、いつもの出勤時間よりも若干早い。

会社で軽く摘めるようなものでも買うために、コンビニに寄り道することにした。

通い慣れた店内をぐるりと回って、ペットボトルの紅茶とカロリーメイトを選んで支払いをする。


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