ガーデンテラス703号
ずっと正面だけを向いている私に気が付いたシホが、薄っすらと唇の端を釣り上げたのがわかった。
そのことが、さらに私の動悸を速くする。
「じゃぁ、これもう一杯ちょうだい」
「お前、まだ飲むのかよ」
まだ半分残っている赤ワインのグラスを掲げたシホに、ホタルが呆れた声でそう言うのが聞こえる。
「当たり前でしょ。誕生日なんだし。あと、最後にデザートサービスしてよ」
「は?」
シホと口喧嘩にも似た会話を繰り広げながら、ホタルが私たちのテーブルの空き皿を片付けていく。
私は、テーブルの上で忙しく動くホタルの手をじっと見つめながら、ずっとドキドキとしていた。
「で、お前は?」
空き皿が全て片付いたとき、ホタルがシホとの言い合いをやめて突然そう言った。
本当に突然だったから、私はそれが自分に向けられた言葉だとは気付かずにいた。
「あゆか。お前は?」
「え……?」
黙っていたら、名前を呼ばれてはっとする。