ガーデンテラス703号
「わぁ。おしゃれな雰囲気のお店だね」
森岡さんの隣を歩く彼女のはしゃいだ声が聞こえてくる。
いつか私にそうしてくれたように、彼女をエスコートして歩く森岡さんの横顔を見つめていたら、彼が私の視線に気が付いた。
目が合って、一瞬だけ彼の瞳孔が大きく開かれたのがわかる。
だけどすぐになにごともなかったように私から目を逸らして、彼女とともに私たちのそばを足早に通過して行った。
気付いていて無視された。
悲しくも苦しくもなかったけど、ほんの少しだけ虚しい気持ちが胸をよぎった。
つい数週間前、森岡さんの隣にいたのは私で、家に来ないかと誘われた。
曖昧な態度をとって、ほとんど逃げ出すみたいに森岡さんの前を去ったのは私だし、彼の気持ちに応えられる覚悟がなかったのも私だ。
だけど、私のことが「気になっている」と言ってくれた森岡さんに対して失礼な態度をとったことが少し気がかりではあった。