ガーデンテラス703号



ようやく氷だけになったスプモーニのグラスを無意味にゆらゆらと揺らして弄んでいると、シホが私の背後に視線を向けながら「あっ」と小さくつぶやいた。


「どうしたの?」

「あの人だよね?」

シホがそう訊ね返してきたのと、私が後ろを振り向いたのはほぼ同時だった。


「森岡さん、だっけ?」

遠慮がちに囁いたシホの声が、店内のBGMに混ざって消える。

私は振り向いた姿勢のまま、しばらく息を止めて固まってしまった。

ショックだったとかそういうことではなくて、ただそこにその人がいたことに驚いていた。

大きく目を瞠る私のすぐ前を、綺麗目のベージュのパンツを履いた、ジャケット姿の森岡さんが颯爽と通り過ぎていく。

その横には白のワンピースを身に纏い、明るい茶色の髪を綺麗に巻いた、一見派手な印象の女の人。

私よりもいくつか若そうに見える彼女は、親しげに森岡さんと腕を絡めて、彼の横を楽しげに歩いていた。


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