ガーデンテラス703号
「これ、もういい?」
ホタルがまだ半分以上コーヒーが残っているカップの中身を覗き込む。
な、なんだ。
突然近づいてくるから、何かされるのかと思った。
まだちょっとびびりながらも、何もされなかったことにほっとして頷く。
ホタルは私から奪い取ったカップをキッチンのシンクに置くと、私のことをちらりと見た。
「じゃぁ、俺も部屋戻るから」
彼が無愛想な声でそう言ってリビングを出て行く。
「あ、ちょっと……」
シホにもホタルにも立ち去られて、私は彼らにこの部屋でのルームシェアを断るタイミングを失った。
後ろを振り返ると、リビングから繋がった部屋に乱雑に置かれた段ボールの山が見える。
それは全部私の持ち物で。
よく考えると、前住んでいた会社の寮を引き払ってここにきた私は、この家でのルームシェアを断ると行き場がない。