ガーデンテラス703号


飛び上がらんばかりに上半身を揺らした香織の手元で、湯気のたったマグが揺れ、その中身が濃い茶色の飛沫になってオフィスの床に跳ねる。


「香織!溢れてる」

オフィスの床には絨毯がはられている。

私が務めているのは小さなお菓子のメーカーで、借りもののオフィスの絨毯に大きな染みでもついたらクリーニング代が高くつく。


経理担当の私は、とりあえずその場にあったティッシュをつかむと、香織が溢したコーヒーをふくためにしゃがんだ。

あとでもっとしっかり拭かないと……


「あゆか。絨毯より、ルームシェア。男がいたってどういうこと?どんな人?何歳くらい?イケメン?」


頭上から、香織の質問の雨が降ってくる。


でも私には、ルームシェアより絨毯。

コーヒーが溢れたところをティッシュで叩くように拭き取りながら顔をあげる。


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