ガーデンテラス703号
「あゆか、早く乾杯するよ」
部屋から出ると、既にワイングラスを持って待ち構えていたシホが私にグラスを渡してきた。
「ホタル、どれ開ける?」
そう言いながらダイニングテーブルの上にあるいくつかのワインを品定めしているシホは、もしかしたら私の歓迎パーティに託つけて、ただ飲みたいだけなんじゃないかと思えてくる。
「あゆかは?普通に飲めんの?」
グラスを持ったままぼんやり立っていると、不意に頭上から低い声が落ちてきてどきりとした。
顔をあげると、いつの間にか近づいてきていたらしいホタルが、シホが開けたばかりの赤ワインの瓶を片手に私を見下ろしていた。
相変わらず目つきの悪いその顔は、なんだか怒っているように見えて怖い。
だけどそんなことよりも……
「今、何て言った?」
眉を寄せながらホタルを見上げる。
もし私の聞き間違いじゃなかったらだけど。
今彼は私のことを呼び捨てにしていなかっただろうか。