クラッシュ・ラブ

メガネを外したユキセンセは、くしゃっと前髪を掻き上げる。それから首を左右に動かしながら、ぼふっとソファに座った。


「ババロアって、給食に出てましたよね! おれ、それ以来ッスよー」
「え? 出てたっけか?」
「えー。出てましたよー。ねぇ? ユキセンセ?」


休憩は、それぞれが自由にしているけど、こうして3人で休憩をしてるときの会話が、また面白い。

最年少のカズくんは、一番多く話題を振っていて。最年長のヨシさんが、カズくんの話を受け身がちに聞きながら会話する。
で、間のユキセンセは、もくもくとおやつを食べてるんだけど……。


「……人数分に切り分けるのが苦手だった」


ボソッと答える言葉が、なんだか微笑ましくて……っていうのは、もしかしたらわたしだけ感じていることかもしれない。

あまり口数の多くない人だから、余計にもっと知りたくなってしまう。

仕事中はなにを考えてるのか、とか、なんでこの仕事を選んだのか、とか。
締切後の数日はどんなふうに過ごしてるのか、とか。

それと――わたしの前にいるときのセンセは、なにを考えているのか、とか……。


「そういや、今回の漫画賞、行くんスか?」


突然、カズくんが話題を変えたようで、ユキセンセに言った。


「え? ユキ先生、行くの? 珍しいな」


「漫画賞」? 「行く」? なんだろう。どういう内容の話なんだろう。
みんなの話に集中するように、わたしはキッチンで手を止める。

耳を澄まして窺っていると、また少し間を開けてから、ユキセンセが口を開いた。


「んー……行きたくない」


ちらりと3人の方向を見てみると、スプーンを口に咥えたセンセが肩を落としていた。


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