㈱恋人屋 ONCE!
「俺は巻き込まれたつもりはないし、特に迷惑ってわけでもない。むしろ、紗姫の秘密を知れてよかったって思ってる。だから…俺にも協力させてくれ、紗姫。」
「…。」
「紗姫?」
どうしていいか分からなくなり、私は菜月くんを抱きしめた。安心したかったのだろうか。それとも、怖くなってしまったのだろうか。それは自分でも分からなかった。ただ、菜月くんの体温を感じて、少しは落ち着けたのは確かだ。
「じゃあ、話はそれだけだから。また明日な。」
「うん。また明日。」
星が出始めた公園から、菜月くんは西に、私は東に歩いて行った。柔らかく私を包み込む月明かりが、私にはほんの少しの希望に見えた。それは確かにほんの少しだ。でも、確かにそこにある。そう思うと、また少し気が楽になった。
「ただいま~…。」
私は家に帰ると、私のお母さんのいる部屋に向かった。
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