時の流れで、空気になる【短編】

「それにしても、先輩、変わってないです」



夜の繁華街を歩きながら、竹下は夢を見るような目をする。


店の外で待ち合わせ、小さなイタリアンレストランで食事をした。


記憶にはなかったけれど、竹下は結構、食べっぷりが良くて、トマトのパスタや、ゴルゴンゾーラのピザを大きな口を開けて、本当にうまそうに食べた。


初夏の夜。


心地良い風が吹く、駅のホームの端っこで、竹下は振り向いた。

白いワンピースの裾がヒラヒラと舞う。


「栗原先輩、ずるい」


「は?ずるいって?」


「…私、東京にいってからも先輩のこと、忘れられなかったんですよー。

でも、先輩はモテるから、きっと私のこと、すぐ忘れちゃうに決まってる。
言葉にしてフラれるくらいなら、自然消滅のほうがいいって思って、自分を一生懸命、慰めてたんです。

今日、先輩がお店に入ってきた時、奇跡が起きた!って死ぬほど嬉しかったのに。
ちゃんと彼女いるし…」


「…ごめんね」


なんで謝んないといけないのか分からないけど。

次の電車が来るまでまだ間がある。


俺は、アタッシュケースを足元に置いた。


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