時の流れで、空気になる【短編】


竹下は、たくさんの銀の輪っかがついたリングサイズメジャーを取り出した。


「先輩、手を出して下さい」


俺の右手は、10本の白く長い指に包み込まれた。

冷たくて、柔らかい感触。



ーーこの女と、恋をするかもしれない…



そんな予感がした。


「イテッ」


楕円形の爪の先が手の甲に突き刺さり、俺は声をあげた。


「あっ…ごめんなさい!大丈夫ですか?」

慌てて、その部分を白魚の指で撫でさする竹下。

そんなことされたら…ヤバイって。


「いや。そういうの、嫌いじゃない」


「ぷっ…先輩、昔からMですもんね」


クスクス笑い出す目の前の女。


「そうかあ?」


「そうですよ~
先輩は、私と付き合ってた時の記憶なんて、ほとんどないんでしょ?ひどいなあ!」


歌うように言ったあと、丸顔の頬っぺたを膨らませる竹下を、俺は素直で可愛いい、と思う。


サツキとこんなふうに会話することなんて、最近全然ない。

もっと話がしたい。


「このあと、食事に行かないか?」


みるみるうちに、竹下の頬が薔薇色に染まる。


「はい!かしこまりました。
指輪のサイズは16号でよろしいですね。竹下が承りました」


おどけて、お辞儀をすると、絹糸の束みたいなカールの毛がふわりと揺れた。





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