時の流れで、空気になる【短編】


男を落とす武器として使ってるんだろうな…

わざとそうしてるのは、ミエミエだった。


俺も嫌いじゃないから。

悪い気はしなかった。







栗原さん、受付に女性がお見えです。



含み笑いの内線電話で、1階のロビーに降りた。


「おう。サツキ」


グレーのパンツスーツに、フリルのブラウスの胸元。


ここ一週間、メールすらしていなかった。


「仕事で近くに来たの。
忙しくて、週末も会えるかどうか分からないでしょ?
だから、ちょっと寄ってみたの」


黒髪をおだんごにして、凛とした雰囲気。

だけど、サツキの様子はいつもと少し違った。

頬っぺたが少し赤い。


「ね、ランチでもしない?」


「ああ…悪いんだけど、先輩と昼メシ行く約束してるんだよね」


朝、有村さんに、
『お前だけに話したいことがある』って言われた俺は、サツキの誘いに乗るわけにはいかなかった。


先輩の人生の転機かもしれない。


そう、と呟き、サツキがまぶたを伏せた時。

俺はスーツのポケットに振動を感じた。



「じゃ、これだけ渡しておく」


サツキは腕に掛けていた、小さな紙袋を俺に突き出した。



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