時の流れで、空気になる【短編】


あっけなく交際が終わってしまったのは、距離という障害を乗り越える努力しなかったからだ。


と、いうよりか、努力の仕方がわからなかった。俺も、竹下も。



「私、 ひと月前にここに異動になったんです…」


喋るたびにきゅっと上がる口元は、変わっていない。


あっという間に、俺と竹下ノドカの間で、時が逆戻りした。


「オデオン座。
昨日で廃館になったんだぜ」


覚えてるかな?


「えっ?そうなんですか?
そういえば、映画観に行きましたよね?えっと、えっと、タイトル忘れちゃった…隕石が落ちてくるやつ!」



竹下って、こんなに可愛かったっけ?
喋り方といい、仕草といい、全てが女らしい。


「ああ、ごめんなさい、どうぞお座り下さい!」


仕事を思い出し、店の奥に設えてある、黒革のソファに手のひらを差し出す。


桜色のマニキュアの指で、キーボードを叩き、俺の指輪の型番と在庫を調べてくれた。



「栗原先輩と同じものが、銀座本店なら、あるみたいです。取り寄せましょうか?1週間ほどかかりますが」


「ああ、頼むよ」


「サイズも測り直ししましょうか?」


「そうだな」


指輪が抜けたのは、激務で痩せたせいだ。




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