そのとき僕は
目を凝らしながらそっと近づくと、雑踏に紛れて声が聞こえてきた。
なあ、暇なんでしょ?という言葉に、あっちへ行って、という女の子の声が重なる。
・・・これって、ナンパ?
人波から少し離れた桜の木の下で佇む彼女は、どうやら男二人にナンパの標的にされたらしい、それが漏れ聞こえてくる言葉から判った。
「ほらな、女の子だろう。俺が言った通りだよ。可愛いじゃーん」
「暇なんでしょ、こんな所に一人でさ。俺らと遊ぼうよ。その服、サイズあってないんじゃないの?買ってあげるよ新しい服も~」
パッと周囲を見回すと、歩きながらの花見を楽しむ人達でそれに気がついている人はいないようだった。・・・僕以外は。
皆自分の楽しみで一杯なんだ。というか、これだけざわざわしていたらそりゃ聞こえないか――――――・・・
僕はとにかくと足を動かして近づきながら、額から湧き出た冷や汗を腕で拭う。
喧嘩?勿論自信がない。威嚇?だってあの男の人二人の方が、僕よりよっぽど体格がいい。じゃあ僕なんか簡単に摘んでポイだろう。だけど、あの人は嫌がっているし。ならどうする?どうするんだ、もう・・・。
考えがまとまらない内に桜並木を抜け出してしまった。もうすぐに騒ぎの場所についてしまう。細めた瞳にも、今はハッキリと、あの彼女のしかめっ面が見えていた。
「触らないでって言ってるでしょ!何なのよあんた達!」
ついでに、彼女の声も。