そのとき僕は


 怒ってるよな。ってことはやっぱり友達なんかじゃないんだ。もう既に、彼らと僕の間の距離はそんなになくなってしまっている。

 鼓動が大きく耳の中で跳ねたのが聞こえた。

 足音が聞こえたらしく、にやけ顔をちょっと歪めて、男の一人が僕に気付いて振り返る。僕はすうっと息を吸い込んだ。


「おまわりさああああ~ん!!こっちです、こっちですー!!」


 男たちが慌てて彼女から手を離す。僕はでたらめな方向を向いて、大声で叫びまくった。まるでそこに警察の人がいるかのように。桜並木の下、散歩中の多数の人々は何事かと振り返る。

「こっちですよ~!女の人が絡まれてます~!!」

「おい、やばいぜ」

「くそ!」

 舌打と共に罵声が聞こえて、すぐ後に僕は弾き飛ばされた。うわあ!と叫んで土に膝をつく。どうやら、男たちが逃げるついでに僕を突き飛ばしたらしい。振り返ると人波に紛れていく男たち。今やこの離れた空き地は完全に目立つ状態で、散歩中の人々がこちらを見て囁いているのが判った。

 ・・・あーあ。つめて。だけど、とにかく成功して良かった。

 ヨロヨロと立ち上がり、手で膝の土を払う。まだ若干大きかった心臓の音を聞いていたら、後ろから肩を叩かれた。

「ねえ、前の人でしょ?」

「え」

 くるりと振り返ると、少年のような彼女。やっぱり薄い灰色の瞳で、ツンと尖った鼻をしていて、目元にはいくつかそばかすがあった。


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