そのとき僕は
絶賛混乱中の僕の前で、その人は立ち上がってふわりとニットのポンチョを被る。その間にも桜はハラハラと降り続き、彼女の髪にも足にも積もっていく。
きっと、僕の体にも。
風に揺られて落ちた桜が、アチコチに。
後ろの桜並木を歩く散歩中の人達からは、時折歓声が上がっていた。
うーんと猫みたいに体を伸ばしてから、彼女が僕を見る。
「寝ちゃったんだね、あたしったら。そりゃ寒いわけよね」
そう言って、彼女はニッと笑顔を作った。
ってか日本語話すのかよ!英語と同じく流暢な日本語を聞いて、脳内でそう突っ込んだ僕は一瞬眩暈を感じる。その軽くてアッサリとした喋り方と口の左端だけをきゅっと上げて作った笑顔に、さっきまで自分が抱いていたイメージがガラガラと音をたてて崩れていくのが判った。
「桜の花びらに埋まりながら、眠りこける華奢で透明感のある少女」から、「花見していたら眠くなって、ただ爆睡してただけの女」に変換中。
・・・うう、ちょっと・・・いや、かなり残念な変換だ。
「とにかく、ありがとう」
彼女がそういったので、僕は頷いた。
それから、じゃあ、と口の中でぼそぼそと言って踵を返す。
ばいばい、そういう小さな声を背中で聞いた。