そのとき僕は
僕は話が判らなくて首を捻る。え?って。そしたら隣の先輩も頷いて言った。
「ああ、まあな。桜の木の下はっていうよな」
僕は自分が無知な自覚がある。そしてそれを恥かしいとは思わないので、こういうときは遠慮なく聞くことにしている。
だからご馳走様でした、と一応両手をあわせておいて、彼らに聞いてみた。何ですかそれ?って。
一人が僕を見て話し出した。
「ほら、知ってるだろ?梶井基次郎って作家が書いた本にあるんだよ、『桜の木の下に』とかいうの。死体が埋まってるって言うヤツ」
「へえ。そんな本があるんですか?・・・梶井基次郎?」
「ピンとこないか?うーん、あれだよ!・・・お前も絶対習ってる・・・うーん、あ!『檸檬』て小説知らないか?本の上に檸檬おいてとかいうの。短いけどかなりドロドロしたくら~い作品だよ。それ書いた人」
「あ、それは知ってます」
僕は頷いた。そうか、話の内容はうろ覚えだが、聞いたことある名前だ。きっと現国か何かで習ったことでもあるのだろう。するともう一人の先輩がお箸を振り回しながら言った。
「その梶井基次郎が影響受けたらしいってのが、能だよ」
「のう?」
「・・・能。頭に乗ってるコレじゃなくて、お面被って踊るやつ」