そのとき僕は
あ、バカにされた。先輩はご丁寧に僕にむかって鼻まで鳴らしてくれた。前からもう一人が身を乗り出す。
「へえ、そうなんだ?」
国文科出身の先輩はやはりそういう話に詳しいようだ。僕を置いて、二人はその話に熱中しだした。
「そうそう、『西行桜』ってヤツ。桜の下で春に死にたいって歌に詠んだ坊さんいただろ?あれが西行。能では、西行と桜の精が色々話すんだよ。そんなのを元にして梶井基次郎が作品を書いたって話を俺は聞いたことある。本当かはしらねーけどさ。まあ、桜も老木も老人も全部死を連想させるとか何とかで」
「だから、桜の下には死体って話になったのか?」
僕は端で聞いていて、ふーんと思っていた。何やら文学的(なのか?)な話になっていて、既に僕の興味からは外れていたから、実をいうとあんまり聞いていなかったのだ。
だけどそこで気が済んだらしい先輩たちが、揃ってこっちをむいてこういったのにはぎょっとした。
「だからさ、その子、幽霊なんじゃない?」
って。
「え・・・え!?」
驚いて仰け反る僕に、先輩はお箸を突きつける。
「だって普通ないだろう~桜吹雪の下で眠る美少女なんてさ~。美少女、だったんだろ?」
まるで美少女じゃなければ意味ないでしょってな言い方に、ちょっとムッとする。だけど、紛れもない、彼女は綺麗な人だった。だからただ頷く。