初恋ピエロット
「なんだよ、これ・・・・・・」

宮は画面を見ずに疲れ果てた声で俺に問う。

目に生気はなく、あんなに大きく見えた体がすごく小さく見えた。
俺はそんな宮にケータイを蹴る。

「見ろ。協力してもらうぞ、宮」

「嫌だ。俺なんかもうどうにでもしろよ」

投げやりに言う宮は憔悴しきっていた。

「まあ、殺すのはいつでもできる。でもな、お前も死ぬのはこれを見たあとでいいと思うぞ」

俺はそういい、宮に背を向けた。






差出人は、小鳥遊慧愛。
題名は、空白。
本文は、たった三行。





 「ピエロたちに、協力を要請する。私は、蓮のところだ。全ての裏には、連がいる。」






物語は、ようやく第二章を迎える。
全てに絡む黒幕、蓮。

時計はようやく命を吹き返した。

だけど、その前に。
本物のピエロの話をしよう。









ハルトの本当の名は、浅葱と言った。

生まれてまもなくして、孤児院に預けられたのである。
小鳥遊慧愛と宮にはそこで出会った。
三人は次第に仲良くなり、家族も同然になった。

成長するにつれ、裏世界に入り込んでいった三人は、自分たちに危険が及ばないように偽名を作ることを考えた。それが、10歳の春である。それから一年間で三人は裏世界で活動する道化師セレネを作り上げた。

その年の冬。

道化師セレネによって潰された暴力団が三人を襲う。
孤児院へ襲い掛かり、子供たちが大勢殺された。

小鳥遊慧愛の妹である小鳥遊早苗が、一人の男に襲われそうになる。
それをかばった小鳥遊慧愛は肩に銃弾を受ける。
激昂したハルトは、暴力団の基地へ乗り込んだが、その後、ハルトが帰ってくることはなかった。

小鳥遊慧愛が集中治療室に入っている間、一度だけハルトが宮と話したらしい。
自分はこれから、あるところに行かなければならない、と。
もう会うことはないだろう、と。
恵にごめん、と。
恵を守ってくれ、と。
道化師セレネを守ってくれ、と。

私たち、道化師セレネの倉庫のシャッターには一つの大きな落書きがある。

そこには三人の大好きなピエロの姿が描かれている。
左目の下には涙のような雫があり、右手にはステッキ、左手には帽子が描かれる。
そのピエロの絵は、倉庫の燃え跡に奇跡的に残っていたそうだ。









ピエロは、もしかしたらどこかでまだ、生きているのかもしれない。









それが、小鳥遊慧愛と宮の心の支えだったのだ。
そして、ピエロを探すことが、宮の生きる理由でもあったのだ。
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