きっともう大丈夫
「え?!」
明良に憧れ、明良の様なアレンジを作りたいと思いながら頑張った事が
こんな形で知られるとは・・・複雑な気持ちだった。
「それで・・・何で彼は来たんですか?」
質問したのはハルだった。
「沙希ちゃんに会いたいって・・・」
「わたし・・・」
「今さら何言ってんです?」
私の言葉はハルのいらついた言葉でかき消された。
そして少しの沈黙が続き一海さんが口を開いた。
「僕もそう思ったんだけど・・・」
何だか只ならぬ緊張が伝わってきた。
「明良に何かあったんですか?」
「実は・・・半年前に彼の奥さんの菜々美さんが交通事故で亡くなったんだよ」
一海さんの言ってる事の意味が最初は理解できなかった。
死んだ?交通事故?どうして・・?持っていたスマホを落としそうになるのをハルが受け止め、明らかに動揺している私の身体を支えてくれた。
「僕も驚いたよ」
「・・・・・・」
「明良君の話だと、事故当日・・・夫婦喧嘩になり家を飛び出し、車を走らせている途中、信号無視で突っ込んできたトラックと衝突したそうだ・・・」
「夫婦喧嘩?」
ハルが確認するように言った。
「うん・・・その夫婦喧嘩の原因っていうのがさ・・・・」
「・・・まさか・・・沙希?」
私は声を発せないままハルを見つめた。
「菜々美さんは明良君の中にまだ沙希ちゃんがいると思い込んでいたそうなんだ。離婚当初はそういった気持ちは確かにあったらしい。
・・・でも菜々美さんのお腹が大きくなるにつれて明良君の気持ちも変わっていったそうだ。菜々美さんと生まれてくる子どもを守りたいってね・・・・
だけどそれが伝わってなかった様で・・・」
「そんな・・・・」
私はショックを隠しきれずハルのシャツの裾をギュッと握りしめた。
「じゃあ・・・明良さんはなぜ沙希に会いたがってるんですか?」

明良は菜々美さんのお墓の前でちゃんと自分の本心が言える様に・・・・本当の意味で私との関係を断ち切った事を確認したいと・・・・
そして会う事への強制はしない。
今回は自分の我儘だから・・・と・・・
一海さんから説明を受けた。
その間ハルはただ黙っていた。
「沙希ちゃん・・・どうする?・・・考える時間がほしいならそれでもいい。
嫌なら断ったっていいんだ。」
断るなんてできない。
「明良に会います」
ハルは私の言葉を黙って聞いていた。
「本当にいいのかい?」
一海さんが確認する。
「はい。私も・・・明良との関係を断ち切った事をハルに伝えたいし・・・
面と向かってさよならしてなかったから・・・」
そう・・・私はあの時逃げていた。
だから本当の意味でのさよならが出来ていなかった。
ちゃんとさよならして私は隣にいる、ハルとこれからの人生を
堂々と歩んでいきたいと・・そう思った・・・・
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