きっともう大丈夫

珍客現る

お店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ~~」
ドアのほうに目をやり営業スマイルで客を迎え入れるとそのお客は意外な
2人組みだった。
学生服に斜めがけのスポーツバッグをかけたその二人組は
明らかに高校生で、うちの店の客層からかけ離れていた。
これが彼、前野春斗との初めての出会いだった。

2人組みは物珍しそうに店内をくまなく見て歩いていた。
一緒にいたもう一人のスタッフ多恵ちゃんはその様子がツボだったようで
おもしろがっていた。
「沙希さん・・・あの子たち何買いにきたんでしょうね~~」
興味津々ながらも小声でささやく。
「私が知るわけないじゃん。どうせ何も買わないわよ。ただの興味本位よ。」
多恵の興味を制した。
あんまりじろじろ見てるのも失礼かと思い、伝票の整理を始めたが
多恵はそれでも気になるらしく店内のディスプレイを直すふりして
少しずつ近づく。
2人組みの高校生は真剣に店内を物色しつつ何か言いたげなしぐさを
時折見せていた。
女の人だったら気軽に話しかけられるけど高校生だとちょっ身構えてしまう。
自分よりも10歳くらいは若く見える男と話す機会が全くと言っていいほどないからだ。
でも先ほどから何か聞きたげでそわそわし、悪く言えば挙動不審。
なんだかわいそうに見えて、しかたないな~って気持ちで接客しようと近づく
「何か・・」
「あの~」
声が重なった。
あまりの絶妙なタイミングに驚いた。もちろん高校生も・・・・
「ごめんね。何かお探しですか?」
営業スマイルで声をかけると物凄い真顔でd
「ハーブって看板に書いてあったけどハブとは違うんですよね・・・・」
一瞬時が止まったかと思った
「はぁ?!ハブって・・・蛇の・・・あのハブ・・・・?」
高校生はうなずく
「・・・んなわけないじゃん」
あまりにレベルが低すぎて笑うの通り越して思いっきり素で答えてしまった
「え?!やっぱ違うんだ・・・だよな~~」
高校生のレベルの低さに落胆してると
それをちょっとだけ離れてみていた多恵ちゃんが肩を震わせて笑っていた
おい!私にこいつら任せないでよ~~と目で訴えると
それに気づいた多恵ちゃんがOKサインでこちらに戻ってきた。
「いらっしゃいませ~~。ごめんね~~もしかしてハブがいると思った?
ハーブっていうのはさ~~薬草とかスパイスとかに使える植物っていうのかな~パスタとかによく使われるバジル?・・・あれなんかそうだし、有名どころだと
ラベンダーとかの事を言うのよ。」
素モード全開の私の横で多恵ちゃんはお姉さま全開で接客。
「・・・・そうなんだ・・・すみません。よくわかんなくて・・・俺らてっきり蛇のハブかと思ってたんすよ~~でもそれにしてはお店めっちゃかわいいし~~・・・
だから前から気にはなってたんだけど・・・・」
・・・・あまりにも申し訳なさそうに答える男子高校生を見てるとさっきの私の態度は大人げないな~~と反省。
多恵ちゃんにありがとうと目で合図を送ると
「・・・さっきは大人げない対応してごめんなさいね。」
私が頭を下げると男子高校生たちも
「いや・・・俺たちも何も知らないのに・・・・変なこと言ってすんませんでした。」
そんな私たちの姿をみてまたもや多恵ちゃんのツボを刺激したらしく
肩がやけに震えていた。
「・・・・沙希さん・・・・なんかすっごくツボなんですけど・・・・」
その一言で今までの微妙な空気が消えたようだった。
気がつくと私も多恵ちゃんも男子高校生も・・・笑いだしていた。
これがきっかけでこの男子高校生はうちの常連になるのだった。

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