きっともう大丈夫
「沙希」
花の水上げをしていると詩織に呼ばれた。
「なに?詩織」
「もしかして今日ってさー沙希たちの結婚記念日じゃない?」
カレンダーで今日の日付をみて気がついた
「やだー本当だ。私すっかり忘れてた。」
自分たちの結婚記念日忘れるってどういうことよ。
今日で1年なんだよ。10年20年の夫婦じゃあるまいし
しかも友達に指摘されるってどんだけ残念なんだ。
持ってたガーベラを落としそうになる。
「今日は私が帰り戸締りとかするから沙希は早めに帰りな。」
詩織からの申し出に一瞬うれしくなるが、素直には喜べない。
「うん・・・でも明良は忙しいから時間取れないかもしれないし・・・」
ぐじぐじと悩む私の姿に詩織のゲンコツが落ちる。
「いったーい」
「痛いじゃないよ。もう!あんたたち見てると本当にイライラする」
詩織はエプロンのポケットから携帯を取り出すと誰かに電話をかけた。
「もしもし?明良?・・・・私、詩織だけど今大丈夫?」
え?!明良??
『あー。大丈夫だけど何だった?』
「何だったじゃないよ。本当にあんたら夫婦大丈夫?」
『・・・沙希になにかあったのか?』
明良の言葉に詩織は大きなため息をついた
「あのさー。今日って何の日かあんた知ってるわよね」
詩織の口調が荒くなり出す時は必ず相手をあんた呼ばわりする。
詩織・・・怒ってるかも
『何の日かって・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ!』
「わかったならさっさと仕事切りあげて帰ってきなさいよ。
普段からすれ違いの生活してるんだからこういうときは夫婦らしいことしないとあんた・・・・沙希に捨てられるよ。」
『あーわかった。わかった。沙希は?いる?いたら代わって』
詩織は無言で電話を沙希に渡した。
「・・・・もしもし明良?」
『ごめんな。結婚記念日忘れてたよ。』
「ふふ・・・実は私も忘れてたの。詩織に教えてもらうまで・・・だめね。
こんな大事な日を二人とも忘れるなんて・・・・」
忙しいから忘れていた訳ではないと思う。
忙しいのはただいい訳だ。二人の時間を作ろうと思えばできたはずだった。
それが1日のうち1時間、いや10分でもそれを怠っていたのは2人の責任。
『早めに仕事を終わらせるから家で待ってて』 
そういって電話は切れた。
詩織に電話を返すと黙って受け取った。
「さあ!スピードアップで沙希を早く帰らせなきゃね。」
そう言って仕事に戻った。
詩織・・・・ありがとう。
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