きっともう大丈夫
私が行く場所なんてもう1つしかなかった。
事前の連絡もなしに詩織のマンションに行くと
詩織と一海さんは只ならぬ私の雰囲気に何も言わず家に入れてくれた。
離婚する。
そういった私に2人は冗談はよしてと笑い飛ばす。
だがその顔は私の口から発せられた言葉で凍りつく
「菜々美との間に子どもが出来たらしいの」
詩織の顔がみるみる変わっていくのがわかった。
「ちゃ・・ちゃんと説明して・・・」
詩織の大きな声に雄太が反応して泣きだす。
一海さんは席を立つと雄太のいる部屋に行き雄太を抱っこしてあやす。

私は昨日明良から聞いた話を詩織に話した。
私が店を開けている時に菜々美に迫られ、欲望に勝てなく
愛情のないセックスしたこと。
すでに妊娠3カ月だということ
子どもに罪はないから、ちゃんと産んで育ててと言ったこと
そして離婚を決意したこと。
・・・感情を押し殺して淡々と説明した。
黙っていた詩織からすすり泣く声が聞こえた。
なんで?なんで詩織が泣くの?
詩織の泣いてる理由がわからない。
「どうして泣くの?詩織は何も悪くないのに・・」
だが詩織は頭をテーブルにこすりつけ泣き続ける
「私が・・・私が・・・菜々美を紹介したばかりに・・・・」
あっ!そっか~~詩織は菜々美を紹介した事後悔してるんだ。
でもそれは違う。
「詩織、顔を上げて。詩織は悪くないよ。 私がもっと早く明良の子どもを
作っていたら・・・こんな事態にはならなかったのかな~。
わたしの我儘だったしね・・・・
1年前明良の願いを叶えていたら浮気ぐらいで済んだのかなって・・・
思うんだよね・。」
でも詩織は顔を横にブンブン振る。
「あの子を沙希たちに紹介したのは私だし、男癖が悪いこと知っていれば
 紹介なんかしなかったのに・・・」
詩織の顔が涙でぐしゃぐしゃになる。
「詩織泣かないで。あなたは何も悪くない」
「でも・・・沙希はまだ明良の事・・・好きなんでしょ?」
明良の事・・・好き?
詩織の言葉に私の涙腺が崩壊する
「好きよ!好きで好きで・・・どうしようもないくらい好き。
だけ・・ど・・私にはもうどうすることも出来ないの・・・」
「沙希・・・」
「私があの人にしてあげれる事は、私と別れて生まれてくる子どもの
パパになってもらうことなの」
菜々美に対する怒りもちろんある。
でもそれ以上に今は明良と一緒に生きていけないことの方がつらかった。
< 53 / 137 >

この作品をシェア

pagetop