きっともう大丈夫
「沙希さんみ・ま・し・た・よ♪」
びっくりして後ろを振り返るとそこには
店働く2こ下のかなでちゃんが満面の笑みと好奇心の塊のような顔で
ささやくように話かけてきた。
「ずいぶん若いイケメンとおはなししてましたよね~~しかも店のほぼ前で」
「え?彼?・・・ああ~昔の知り合いよ。」と言ってみたが
好奇心旺盛のかなでちゃんが引き下がるわけもなく
「えええええ!そんな感じしなかったですよ~~なんかあったっぽい?
・・そんな感じがするんですよね」
あ~~かなでちゃんの妄想トークが始まったよ。
やれやれと思ってると店の奥から詩織の声が聞こえた。
「いつまでもくっちゃべってないで仕事しなさい!」

「花淋(カリン)」ここが今私が働いている花屋。怒鳴り声の主はオーナーでもあり
親友の渡辺詩織(わたなべしおり)
彼女がいなければ今の私はなかった。
ハルの前から姿を消してからの9年はいろんな事がありすぎた。
でも今は詩織や詩織の家族、そしてかなでちゃんという素敵な仲間に囲まれて
やっと楽しいと思えるようになったの。
「沙希」
名前を呼ばれて我に返った。
「詩織・・・どうした?」
「ごめん・・今日、旦那打ち合わせでいないんだ~~悪いけ雄太のお迎えに行ってくるから店番いい?」
詩織は私と同い年の35歳、一児の母だ。
子どもの雄太(ゆうた)は保育園の年中さんで、
旦那さんの一海(かずみ)さんはフリーのイラストレーター。普段は自宅にいるのだが
クライアントとの打ち合わせのため今日は詩織が雄太の送り迎えをすることになってた。
「あー。もうそんな時間なのね。いいよ~行っておいで、
店はわたしとかなでちゃんで回せるし、慌てて帰ってくる事ないよ。
雄太と遊んでおいでよ」
「ありがと~じゃー行ってきます」そういうと車のキーとバッグを持って店を出たが、いったん止まって沙希の横まで来ると
「さっきのイケメンのこと今夜ゆーっくり聞くから」
・・・詩織も見てたんだ・・・あ~~
私はエプロンのポケットの中にあるハルの名刺をそっとさわった。
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