BitteR SweeT StrawberrY
     *
病院の近くのファーストフード店で、あたしは、佐野さんと向かい合いながら、席に座った。
佐野さんは一度自宅に帰ったらしく、昨夜会った時とは服装が違っていた。
あたしも、お風呂に入って着替えがしたいと思ったから、食事したら、一度家に帰って、ケイの着替えも持ってくるって、あたしは佐野さんにそう言った。
佐野さんは、コーヒーを飲みながら、ハッシュドポテトを頬張って、なんだか可笑しそうにあたしの顔を見たのだった。

「なんだおまえ?昨夜は、あれだけぴーぴー泣いてたのに、随分と前向きになったな?」

「ぴーぴー泣いてたとか言わないでください!いや・・・確かに、ほんとのことだけど・・・」

あたしはそう言ってから、思わずうつむいて、あったかいミルクティーを飲んだ。
佐野さんは、ケイによく似た真っ直ぐな瞳を、愉快そうに細める。

「なんでケイが、優子を気にいってるかわかるわ、オレ」

「え?」

「おまえって、順応性高いよな?ぴーぴー泣くわりに、立ち直り早いし、根っこがしっかりしてる」

「うぅ・・・もう!褒めてもなにもでませんよぉ!」

「ああ、そうか・・・残念だ」

あははって笑った佐野さんが、少し真面目な顔つきになって言葉を続けた。

「正直、おまえが会社休んでくれて助かったかも・・・
昨夜は真面目に説教たれたけど・・・結局、男ってのは打たれ弱いんだよ」

「え?何をいっちゃってるんですか??」

「いや、ほんとのことだって。
おまえから電話もらって・・・ああ、ついにきたかって思ったもんな・・・」

「急に弱気にならないでくださいよ・・・
あたし、佐野さんが来てくれて、すごく安心したっていうか・・・
きっとケイも、佐野さんいてよかったって思ってると思いますよ・・・」

「苺猫はよく教育されてるな」

くすくすと笑いながら、佐野さんはコーヒーを飲む。
あたしは、むぅって唸りながら、ちょっと赤くなって、そんな佐野さんの顔をじーっって見つめてしまった。

「それは、どういう意味ですかぁ?」

「んー?ケイによく調教されてんだなってさ」

「なんですかそれ!?」

「いや、言葉のままだけど」

そう答えて、佐野さんはまた、あははって笑う。
軽く腕時計をみて、片手で頬杖をつくと、その視線を窓の向こうの人通りに向けて、佐野さんは、落ち着いた口調で言葉を続けた。

「ケイが最初に癌になった時さ、あいつ、急にオレを呼び出して、何言うのかと思ったら、さらっとさ・・・
『おっぱい片方取るから』って言ったんだよ」

「え?」

「しかもさ、なんか、『ちょっと買い物行ってきます』レベルな普通の顔してさ。
俺、冷静なふりしてたけど・・・実は相当びびりまくってて。
こいつ、死ぬんじゃないかって、本気で心配したんだよな」

「でも・・・普通は・・・心配すると思いますよ・・・」

「あぁ・・・まぁ、それもそうなんだけど・・・
なんか、全然平気そうなアイツ見て、こいつ、ほんとにつえーなって思ったんだよな。
今も・・・なんか優子目の前にして、こいつもつえーなって思ってる」

「あたしは・・・ケイほど強くないですよ。むしろ、それこそ弱虫で・・・
実は昨夜・・・彼氏の浮気が発覚したんです」

「んー?まじか?」

「まじです・・・あたし、浮気現場を目の当たりにして、固まっちゃって・・・
どうしたらいいか判らなくなって・・・それこそガクガクブルブルで・・・
でもケイは、なんか怖い顔して、ガツンって言って、うちの彼氏黙らせて。
ケイにガツンって言われて、何も言い返せなくなった自分の彼氏見て、あたしってダメなやつだなって、自己嫌悪しちゃいました」

「ケイは特別だよ。口喧嘩になったら、オレだってアイツには敵わない」

佐野さんはそう言って、誇らしそうに笑った。
あたしは、そんな佐野さんの横顔を見つめながら、ふと、思った。

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