カットハウスやわた
信号がちょうど赤になり、熊野さんが私のほうに顔を向けた。


「彼氏は?」


「……別れました」


「……だから、田舎に引っ越すんですね」


余計なお世話だよ……と思いながら、黙ってうなずいた。


「私も今、フリーなんですよね。よかったら……」


「信号、青になりましたよ」


私は、無表情のまま、そう伝えた。それは、遠まわしに、興味ありませんと言っているようなものであった。でも、ナルシストには、伝わるはずもない。


「よかったら私と大人の恋愛、しませんか?」


熊野さんは運転をしながら、さっきの言葉の続きを話した。


「……当分そんな気、ありません」


「そうですか……元カレに未練でも?」


「そんなんじゃありません」


思わず、ムッとしてしまった。そんな私をチラッと見ると、熊野さんは、クスッと笑った。


「ムッとした横顔も、かわいい」


……と。


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