カットハウスやわた
片付けが終わり、店の鍵を閉めながら、八幡さんが言った。


「今日は、商店街から離れて……隠れ家に行こう?」


「隠れ家……ですか?」


「うん。商店街の連中にも教えてない、しゃれた隠れ家」


商店街の人たちも知らない、しゃれた隠れ家に胸がワクワクした。八幡さんはそれ以上はなにも言わず、商店街を出て行った。私も黙って後に続いた。


商店街から二十分ほど歩くと、閑静な住宅街が見えてきた。その中の一軒家で急に足を止めた。表札に‘‘山科”と書いてある、普通のお宅だ。八幡さんは、山科さん家のインターホンを鳴らした。


「や!八幡さん?」


しばらくすると、中からエプロン姿の女性が姿を現した。だ、誰?山科さんって、何者?妙な緊張感を覚えた。


「いらっしゃいませ。二名様ですね?ご案内いたします」



ごく普通の玄関に案内され、靴を脱いであがった。二階の階段も、普通の家と変わらないが、畳の部屋にいくつかのテーブルがあった。


「本当に、隠れ家ですね」


「他の人には内緒だよ?」


八幡さんはそう言うと、メニュー表を私の前に広げた。豆腐料理専門店で、すべてコース料理になっていた。






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