翻弄される男
―――――――…



「しーのざーきサーン」

「わ……!」

背後から聞こえたその声に、私は自販機の前で、購入したばかりのお茶を思わず手から滑り落とした。

「あれ?意識してくれてたりする?」

「し、してないです!ただ、急に呼ばれたから驚いただけで」


今日は先輩にお弁当を作って来た。

私だって、大人で出来る女だってところをアピールしたいと言う、下心丸出しで。

いつも外食や買い弁だなんて、先輩に、料理が出来ない女だと思われてそうで。

先輩を屋上で待たせて、お茶を手配しようとこの自販機に来た所を、運悪く上野さんに捕まってしまった……。


ホント、この人の馴れ馴れしさといったら。
私はこのタイプが苦手なんだと、上野さんのお陰で知る事が出来た。

先輩とは正反対のタイプ。

だから、近寄られる度に、気が休まらないと言うか……

何をされるかわからないという、変なドキドキ感との攻防戦になる。


私は、背後の気配に気を配りながら、二本目のお茶のボタンを押す――

――が。

横からスッと右手が伸びると、珈琲のボタンを素早く押した。

ガタンと音ともに出てきたのは、勿論珈琲で。

それを上野さんは、躊躇いなく手に取ると、プルタブをあけた。

「あ!」

「俺も喉乾いたんでゴチになります。どーせ、高田先輩の金でしょ?」

「違います。……珈琲あげるから、もう私達の事は、放っておいてくださいね」

本当に、油断も隙もない。

再びお茶を押し、階段をあがろうと踵をかえすと、「待って」と、腕を捕まれ強引に身体を壁に押しあてられた。

「きゃ……!」


背中はひんやりしているのに、身体は熱く熱を帯びている。


こ、この人は、何をするかわからない。

ドクドクと鼓動が早くなる。

身体が強張る。

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