翻弄される男
「動かないで……」

「な、な、何をする気で―――!!」

「値札、付いてるけど?」

「え!?」

胸元を綺麗に見せる、セクシーなブラウスに、合わせて買ったネックレス。

上野さんは首もとに手を忍ばせる。

「ほらね?」


あ、あれ?先輩でも気付かなかったのに。


「あ、ありがとう御座います……」

「あれれ、何か違う事されると思ってた?」

「ち、違います!」

「どーかな?顔赤いし」

「違いますよ!た、ただ、値札に気付かなかったから、恥ずかしいだけです!」

「ふーん。じゃ、そう言う事にしといてあげる」

「で、では……」

私は慌てて礼をして歩き出す。

すると、再び、上野さんが私の腕をがっしりと捕んだ。
さっきよりも強く。

「え、まだ、値札つ――」


え……?


く、唇に柔らかい感覚。

何がおこったのか、一瞬わからなくて……。

気付いたら、彼を思いきり突き飛ばしていた。

「な、なな、な、何をするんですか!?」

「キスだけど、駄目だった?」

「だ、だ、駄目です!!駄目に決まってます!!」

「何で?俺は、ずっと好きだって伝えてた筈だけど?言っとくけど、俺だって前の部署じゃ、高田先輩と争える人気なんだぜ?」

キ、キ、キキ……キス!?

私が!?

先輩じゃない人と!?

誰と!?

う、上野さんと!!

な、な、何で!?

え、え、何で!?

「え……訊いてる……?」

先輩以外と、キスしちゃうなんて……

先輩は、ずっと、誰とも……しなかったのに……!!

「し、篠崎サン?」

私が油断していたからだ……。


先輩……


私は、唇を袖口であてながら、涙が溢れそうになるのを必死で堪えていた。


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