【完】本当の恋
大切な人 山口浩太
これはまだ、俺が大学2年生の時。
「待てよ。美奈」
「ごめんね。浩太には甘えてばかりで」
「何言ってるんだよ」
「私、もう疲れたよ」
バッ
「美奈ーーっ」
美奈は俺の目の前で死んだ。
後から聞いた話。
美奈はストーカーに悩んでいたという。
そのせいで、成績も悪くなり、周りからもいじめられていたと。
俺は、美奈の彼氏なのに。
気づいてあげられなかった。
もう、美奈みたいな子を出したくない。
俺は、精神科医になった。
俺を訪ねてくる人は様々で、家庭内暴力、いじめ、友達関係と悩んでいる人が来る。
みんな疲れていて、怯えてて。
あの時の美奈を思い出す。
今日は、美奈の3年忌。
俺は、美奈の家に行く。
「おばさん」
「浩太くん」
俺は、線香をあげる。
「おばさん。すいませんでした」
「もういいの。あの子は幸せって言ってたわ」
「でも・・・」
「浩太くん。もうここには来ないでほしいの」
「え!」
「もう。もう、あの子のことは忘れて」
「いや、しかし・・・」
「私は、夫をなくして女手一つであの子を育てた。あの子のことは分かってるつもりだった。なのに、なのに。ううっ」
俺は持っていたハンカチを渡す。
「ありがとう。私があの子を殺したの。あの子は私が・・・」
「おばさん・・・」
「帰って。もうここには来ないでっ!」
俺は、深々と頭を下げて家を出た。
それから5年。
俺は美奈の家に行っていない。
久しぶりに美奈の家に行った。
コンコン
「山口です」
返事はない。
ガチャ
ドアが開いていた。
「おばさん?」
俺は家に入る。
台所に向かうとおばさんが倒れていた。
「おばさんっ!」
俺は急いで救急車でを呼んだ。
テーブルの上には遺書があった。
もう疲れました。
あの人のところに行きます。
浩太くんありがとう。
おばさんは自殺だった。
おばさんの葬式に行く、俺は線香をあげた。
「ねえ、どうするの」
「私はいやよ」
「俺たちだって」
親戚の人たちが今後について話していた。
俺はその場を後にした。
俺が、もっと早く美奈の家に行けば。
俺が、おばさんの話を聞いていれば。
俺が、俺が・・・。
暗い夜道歩いていると、揉めている人たちを見かけた。
よく見ると、男が女の首を絞めていた。
俺は、男を押して、女の手を引っ張って家に向かった。
家に着き女の方を見ると倒れた。
俺は寝室に運んだ。
しばらくして目を覚ました。
「あ、起きたんだ。はい」
俺は入れたてのココアを渡す。
「具合。良くなった?」
「あの、あなたは?」
俺は、自己紹介をして、名刺を渡した。
この子の目は、あの時の美奈と同じ目をしていた。
俺は、この子を泊めることにした。
なんだかほっとけない感じで、美奈に似ていた。
安心したのかすぐに寝た。
俺も眠った。
「太。浩太」
「んっ?」
目の前には美奈がいた。
「美奈!」
「浩太。母のこと見つけてくれてありがとう」
「ごめん。もっと早く気づいていたら・・・」
「いいのよ。母も私たちに会えて喜んでいるわ」
「なあ。美奈」
「ん?」
「俺のこと恨んでるか?」
「ううん。逆に感謝してる。ありがとう」
そう言って美奈は消えていく。
「美奈!待てって。行くな」
「浩太。貴方の幸せが私の幸せだから。
「美奈ーっ!」
がっ
「ハァーハァー」
久しぶりに美奈の夢を見た。
美奈が死んだ日からずっと見ていた夢。
ゴクゴクッ
俺は、水を飲む。
俺の幸せが美奈の幸せ。
俺はふと昨日の子を思い出しベットに向かう。
気持ちよさそうに寝ていた。
「俺が、君を守るから」
美奈。
俺、この子を守るよ。
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