【完】ズルい瞳[短編]
「ありがとうございました」
蒼ちゃんの運転する車が、私の自宅前に到着したのは……もう夜の9時過ぎだった。
「ホントに大丈夫か?もし不安だったら、俺のお袋んとこ行けよ?」
運転席の蒼ちゃんは……学校とはまるで違う
あの頃の……少しだけお節介な蒼ちゃんそのまま。
「あ、いえ。大丈夫ですから」
そう言って車から降りるべく、助手席のドアを開けようとしたのだけど
鍵が掛かっているのか、なかなかドアは開かない。
「あ、あれ?先生?」
四苦八苦していると突然、頭上に温かく大きな手が添えられ
驚き、振り向いた先には
「っ!?」
優しい瞳を携えた蒼ちゃんの柔らかな視線とぶつかった。
「悪い……何となく帰したくなくて」
「え………」
その言葉の意味を尋ねる間もなく
「いいか?絶対に風邪ひくなよ?そんで明日も元気に学校に来い!」
蒼ちゃんの顔つきは瞬時に学校モードに切り替わってしまう。
と、同時にドアのロックは解除され
「また明日な、村瀬」
教師の仮面を再び被った蒼ちゃんは、私の頭にあった手をゆっくりと離していった。