死せぬ者
アドロフは目を丸くする。
「それが、アリシアが来た時変わった。」
ロウウィンはため息混じりに言う。
「屈託なく手を伸ばすお前さんに心を許したんだろ。」
「……最初は怖かったけどね。」
ドゥルフにアリシアは苦笑する。
「でも、あの人の目は……酷く悲しい目。まるで、ずっと冬の中に居るみたい。」
『触るな!』
伸ばされた手を払う。
『けれど、怪我をしているわ。』
『貴様に関わりがない話だ。』
『同じ軍の……仲間でしょ?』
『馴れ合う気はない。』
ヴォルフラムはアリシアを睨む。
『だめよ!』
アリシアはヴォルフラムの腕を掴み、真っ直ぐ見つめた。
『少しの怪我でも大変なことになるわ。』
『……』
『ね?』
余りにも真っ直ぐな目にヴォルフラムは抵抗を止めた。
「攻撃的で、真っ直ぐなひと。」
アリシアは言う。
「だが、ありゃあ……真っ直ぐ過ぎて誤解されるタイプだな。」
アドロフは苦笑する。
「違いねぇ!」
ドゥルフが笑った。
噂の渦中に居る張本人、ヴォルフラムは部屋に戻っていた。
部屋は荒れている。
私物らしい私物はなく、家具や元々あったのだろう花瓶は壊れ、欠片が散乱している。
窓やカーテンも破損していて、意味を成さない。
まるで、廃屋だ。
「……」
黙って、月を見る。
(もう、夜か。)
時間感覚が無い様子で夜空を見た。
——10年前
ヴォルフラムが目を覚ますと其処は見知らぬ土地だった。
それでも、どこか見覚えがある風景に戸惑うことはなかった。
(また、だ。)
彼は何度も転生をし、この地にいる。
誰の腹からも生れず、この世に在る命。
その命に彼は必要性を感じない。
その世界で、大男が手を差し伸べ、流されるがまま、此処に居る。
まさか、こんな存在が出来るとは思わなかった。
「アリシア……」
愛おしい者の名前を呟く。
何故か転生を繰り返し、朽ちても再生する身体。
転生する場所は不規則だ。
故に、馴れ合う気もなかった。
『一緒に行こう』
無邪気に笑う少女。
その手は暖かく、握り返した冷たい手を拒まなかった。
(……くだらない。)
だが、守りたいと思える相手を嫌だとは思わない自分が居る。
失うだろう。
おそらく、自分より先に死ぬ。
ヴォルフラムはそんな確信を振り払うように部屋の外へ出た。
見計らったかのように、顔色を変えたアリシアが駆け寄る。
「大変!此処に人間軍が」
「それが、アリシアが来た時変わった。」
ロウウィンはため息混じりに言う。
「屈託なく手を伸ばすお前さんに心を許したんだろ。」
「……最初は怖かったけどね。」
ドゥルフにアリシアは苦笑する。
「でも、あの人の目は……酷く悲しい目。まるで、ずっと冬の中に居るみたい。」
『触るな!』
伸ばされた手を払う。
『けれど、怪我をしているわ。』
『貴様に関わりがない話だ。』
『同じ軍の……仲間でしょ?』
『馴れ合う気はない。』
ヴォルフラムはアリシアを睨む。
『だめよ!』
アリシアはヴォルフラムの腕を掴み、真っ直ぐ見つめた。
『少しの怪我でも大変なことになるわ。』
『……』
『ね?』
余りにも真っ直ぐな目にヴォルフラムは抵抗を止めた。
「攻撃的で、真っ直ぐなひと。」
アリシアは言う。
「だが、ありゃあ……真っ直ぐ過ぎて誤解されるタイプだな。」
アドロフは苦笑する。
「違いねぇ!」
ドゥルフが笑った。
噂の渦中に居る張本人、ヴォルフラムは部屋に戻っていた。
部屋は荒れている。
私物らしい私物はなく、家具や元々あったのだろう花瓶は壊れ、欠片が散乱している。
窓やカーテンも破損していて、意味を成さない。
まるで、廃屋だ。
「……」
黙って、月を見る。
(もう、夜か。)
時間感覚が無い様子で夜空を見た。
——10年前
ヴォルフラムが目を覚ますと其処は見知らぬ土地だった。
それでも、どこか見覚えがある風景に戸惑うことはなかった。
(また、だ。)
彼は何度も転生をし、この地にいる。
誰の腹からも生れず、この世に在る命。
その命に彼は必要性を感じない。
その世界で、大男が手を差し伸べ、流されるがまま、此処に居る。
まさか、こんな存在が出来るとは思わなかった。
「アリシア……」
愛おしい者の名前を呟く。
何故か転生を繰り返し、朽ちても再生する身体。
転生する場所は不規則だ。
故に、馴れ合う気もなかった。
『一緒に行こう』
無邪気に笑う少女。
その手は暖かく、握り返した冷たい手を拒まなかった。
(……くだらない。)
だが、守りたいと思える相手を嫌だとは思わない自分が居る。
失うだろう。
おそらく、自分より先に死ぬ。
ヴォルフラムはそんな確信を振り払うように部屋の外へ出た。
見計らったかのように、顔色を変えたアリシアが駆け寄る。
「大変!此処に人間軍が」